■平成24年度文部科学省「生徒指導・進路指導総合推進事業」
2013年6月20日 公開
私たちは、平成24年度「生徒指導・進路推進事業」の実践研究団体に選ばれました。私たちの研究の内容が多くの方々に参考になるよう、ホームページで概略を公開いたします。
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【研究テーマ】
私たちは、文科省が指定するテーマの中から、以下の研究テーマを選びました。
⑩メンタルフレンド等の外部人材の活用やピア・サポート等を通じた異年齢交流など児童生徒の社会性を高める取組
⑫高等学校不登校生徒や高等学校中途退学者、中卒後に進路が定まっていない者等義務教育終了後の段階で問題を抱えると子どもに対し、教育支援センターやNPO法人、民間団体等を活用した社会的自立を支援する取組
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【研究の概要】
在宅不登校の子どもや、その経験者である若者を対象とし、インターネット上の専用SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を使って、他者とのつながりや異年齢交流を支援し、それを基礎としながら他者と共同で行う体験活動や進路支援等を実施する。
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【テーマを選んだ背景】
私たちはフリースクールを中心とした不登校支援を1985年より続けてきましたが、在宅不登校支援においても、1993年ホームシューレ開始以来この秋で20年になります。在宅不登校支援における最近の傾向としては、「支援の長期化」「メンタル面での傷つきの深刻化」「進路獲得の困難化」などが挙げられます。私たちは、そうした問題の背景に「孤立化」があると強く感じています。「孤立化」は、「対人コミュニケーションの不足」「社会的な経験の不足」「進路支援の不足」などさまざまな不足を生じ、結果として多くの子ども・若者の「どうしていいかわからず、立ち尽くしてしまう状況」を生んでいます。そうした状況を少しでも緩和したいと考え、研究テーマを選びました。
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【対象】
公的な支援機関や、フリースクール等の民間支援団体とつながらず、在宅中心で生活をする子どもまたはその経験者である若者で、専用SNSに登録したものを対象としています。
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【内容】
I 専用SNSについて
当実践研究のために、ミクシィ型の専用SNSを用意しました。原則として、参加者と、スタッフ、オペレーター以外は入ることができません。本名の開示は義務付けておらず、各自は自分のハンドルネームやアイコン・アバターによって交流することができます。各自は自分の日記を持つことや、自分のブログをリンクすることができ、個々にコメントを送ることができます。また、各自が自主的にコミュニティを立ち上げることができるようになっています。
II 他者と共同で行う体験活動・進路支援について
SNS登録者を対象に、スタッフが用意した共同活動は「調理コース」「美術コース」「イラストコース」および「WEBラジオ」の4つで、各自が任意で申し込み、参加することができます。「調理」「美術」「イラスト」の各コースは月に2回実施しました。また、「WEBラジオ」は、参加有志がパーソナリティとなって他の参加者をリスナーとして月1回放送するインターネットラジオです。
また、SNS登録者の中で希望者を対象に、高認に関する情報や学習サポートを行う「高認サポート」を実施しました。「高認サポート」はSNS内にコミュニティをつくり、24年度中に10人が受験し、そのうち6人が全科目を取得しました(他の4人も部分合格でした)。
さらに高認サポート以外に、進学や就労に関する「進学サポート」「就労サポート」を実施しました。就労サポートには、「しごと体験」や「インターンシップ」「就労相談」などを実施しました。
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【結果】
●SNSの利用と社会的経験
私たちは、専用SNSの参加者の社会的経験について調査しました。対象とした社会的経験は次の16項です。2~7は、本事業として行ったもの、8~11はホームシューレの通常活動として行ったものです。12~16は会員から直接ヒアリングしたものです。
- SNSへの書き込み参加
- 他者と行う共同活動体験・その1「調理コース」
- 他者と行う共同活動体験・その2「美術コース」
- 他者と行う共同活動体験・その3「イラストコース」
- 進路支援・その1「高認サポート」
- 進路支援・その2「進学サポート」
- 進路支援・その3「就労サポート」
- オフ会やサロンなどの交流への参加
- 交流合宿への参加
- 学習サポートへの参加
- ボランティア体験
- 日常的な外出
- 大学・専門学校進学
- アルバイト・職業体験
- 就職
- 自動車免許取得
以上のうち、2つ以上の項目に該当する参加者は66(昨年度47)人でした。その割合は参加者全体の89.2(昨年度60.3)%でした。今回は昨年度に比べて全体の参加者数が若干減ったものの、社会活動が2つ以上ある者が大幅に増加し、参加者全体の9割近くになりました。
●他者との共同活動体験と社会的経験・進路支援
2~4までの他者との共同活動体験には、実数で22(昨年度16)人が参加しました。この22人について、1~16の項目数がいくつあるか調査したところ、平均5.5でした。また、5~7の進路支援については、以下のようでした。
小中学生を除いた18人のうち、全員が就学または就労のどちらか、または両方につながったケースは18人(100%)でした。他者との共同活動体験に参加した者は、他に比べて社会的経験が多く、さらにそこから進路支援を希望し、実際に就学の就労につながる人が増える傾向があることがわかりました。
進路支援内容 | 人 | 内訳 |
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小中学生 | 4 | 期間中に進路支援希望なし |
進学支援のみ | 10 | 高校在学中3、高認(部分合格含)8 |
就労支援のみ | 2 | アルバイト2 |
進学・就労とも | 6 | 高認(部分合格含)&アルバイト5 |
合計 | 22 | 実数 |
一般的には、在宅不登校対象の支援といいますと、いきなり就学や就労を勧めたりすることも多いようですが、そうしたことは当事者のその時の思いやニーズ、状態などによります。むしろ、緩やかで参加しやすいコミュニティが用意されていたり、そこを土台としてリアルな人間関係を体験する共同活動体験などから始められたりすることによって、より心理的なハードルが低くなり、それぞれのニーズに基づく支援がしやすくなるのではないかと考えます。