フリースクールにおけるインクルーシブ教育実践及び推進事業 2012年度 実施報告書

2013年9月09日 公開

公益財団法人石橋財団寄付助成事業
特定非営利活動法人東京シューレ 2013年6月30日

I. 東京シューレにおけるインクルーシブ教育の理念と概要

1.インクルーシブとは

「インクルーシブ」のそもそもの意味は、包含する、含まれるという意味であり、教育現場でのインクルーシブとは、障がいがあろうとなかろうと、あらゆる子どもたちが地域(の学校)に分け隔てなく包みこまれ必要な援助を提供されながら教育を受けることを指します。ですから、障がいを持っている人が特別な場で特別な教育を受けることではありません。すべての子どもはそれぞれに固有のニーズをもっており、そのニーズに対して配慮がなされ、支援されることが大事です。

2.東京シューレの理念

東京シューレは1985年学校外の居場所・学び場として設立されました。子どもたちとの関わりの中で、次の5つを大切な柱とする活動ができあがってきました。

  1. 子どもの居場所でありたい
  2. やりたいことを大切にする
  3. 自分で決めることを大切にする
  4. 子どもたちで創る
  5. 違いを尊重すること

子ども一人ひとり、個性も、置かれた状況も、育ってきた環境も、体験してきたことも違います。東京シューレでは違いを受けとめ合い、一人ひとりの興味や感性、ペースを大事にして共に育つ場をつくってきました。まさにそのことがインクルーシブ教育であると言えるでしょう。

3.東京シューレでのインクルーシブ

東京シューレでは開設1年目から障がいをもった子どもたちも仲間入りし、この28年間で1500名近い子どもたちが育ってきました。本人が希望すれば、すべて受け入れ、東京シューレから入会を断ったことはありません。
近年では、社会的にも増えたといわれている発達障がい(自閉症スペクトラム)と呼ばれる子どもが、どこのフリースクールでも増えており、東京シューレも例外ではありません。東京シューレでは、健常児に近づけるとか、困った点を直すというふうには考え方ではなく、その子の個性・特性ととらえ、その子を理解し、その子の感性や能力を伸ばす方向で必要な支援を行っています。
発達障がい以外にも、知的障がい、視聴覚障がい、肢体不自由、チック、場面緘黙、不安障がい、強迫障がい、パニック障がい、自律神経失調症、リストカット、拒食・過食、うつなど、さまざまな状況をもった子どもたちも、たくさん会員として共にやってきました。

II. フリースクール活動における実践

1. フリースクールの概要

(1) 東京シューレは3ヶ所のフリースクールを運営し、2012年度の受け入れは下記のようになっています。

初等部 中等部 高等部 合計(人)
東京シューレ王子 8 9 39 56
東京シューレ新宿 3 9 14 26
東京シューレ柏の葉 5 2 5 12
合計(人) 16 20 58 94

当報告では、東京シューレ王子(王子シューレ)の実践を紹介します。

(2) スタッフ体制
常勤スタッフ6人 (初等部1人、中等部1人、高等部3人、相談専門スタッフ1人)
非常勤スタッフ1人、ボランティア5~6人

2. 日常活動

日常さまざまな子どもたちが、同じ空間で過ごしています。そこでは自分と他の人との違いを認め合い、障がい等によって差別的な視線で見られることがないような空間になっています。

(1) 日常の様子


3階フリースペース

海外からのお客さんを迎えて

韓国のフリースクールの若者たちとの交流

(2)ミーティング、実行委員会

(3)いろいろタイム


新高等部歓迎会

お菓子作り体験(プリン作り)

魚さばき

クリスマス会のようす

3. 高校での実践

2012度から、東京シューレはフリースクール高等部とホームシューレ高等部において広域通信制高校と教育提携し、「高校コース」を開設しました。高等学校の教育課程においてもフリースクールの活動実践を大いに活かしています。

(1)レポートサポートでの実践


レポート自体を、一人ひとりの興味関心や習熟度に応じて、個別に作成しています。

(2)スクーリングの様子


体育のスクーリング(山登り)

担当教員のほか、サポートのスタッフが数名授業に入ります

4. 活動の実例

(1) プログラムの多様性
週ごとのスケジュール(時間割)をプログラムと呼んでいます。プログラムは子どもミーティングで決めていきますが、それぞれのプログラムへの参加は、一人ひとりが選択していくシステムになっています。ミーティングで決めるプログラムのほかに、個々のニーズに合わせた個別ブログラムも、子どもとスタッフで相談して作成しています。

基本プログラム(中高等部)

※クリックで原寸表示されます

(2) 打楽器


「打楽器」講座は外部でのコンサートや被災地での演奏活動にも参加しました。

5. 子ども・会員の個別状況と対応

 保護者の相談や申告に応じて、あるいはスタッフが日常の中で、一人ひとりの個性に合わせた受け入れ体制をとっています。そのようなニーズは会員全体の約3分の1にあたります。

III. 理解を深めるための活動

 障がい、発達障がい等への理解を深め、インクルーシブ教育活動を推進するために、学びあいの活動も行いました。

1. スタッフの研修

(1) 学習会への参加

①「登校拒否・不登校を考える夏の全国大会 in北海道」
 テーマ別講演会「発達障がいと不登校を考える」講師:田中康雄さん
2012年7月28日(日)・札幌市
 発達障がいについて理解を深めるため、夏に行われた全国大会に参加しました。講師は元北海道大学の教授で、現在は児童精神科のクリニックを開業している田中康雄さん。

②「専門家と考える 不登校と医療」講師:高岡健さん
2012年年10月30日(火)・千代田区
 岐阜大学の准教授であり、発達障がいについての著書も多数ある高岡健さんの講演会開催に協力し、スタッフや保護者の希望者が参加しました。

(2) 訪問研修(NPO法人楠の木学園)と共有
 障がい、発達障がいの子どもたちの教育にあたっているフリースクールNPO法人楠の木学園(神奈川県横浜市港北区)学校へ訪問研修を行いました。 
2012年11月 26(月) 訪問
2012年12月25日 全スタッフとの共有

(3) 日本児童青年精神医学会での発表と共有
2012年10月31日~11月1日    東京都千代田区砂防会館にて
2012年11月 スタッフとの共有

2. 相談活動、保護者会の活動

(1) 保護者会
 毎月第2土曜日に保護者会を持ち、日々の子どものようすや悩みなどを保護者どうしやスタッフが共有して学びあっていきます。毎回の保護者会で、障がいに関わるテーマは必ず話題に上り、話し合ってきました。

(2) 発達障がいをテーマにした分科会
 2013年1月の保護者会では、テーマ別の分科会形式でじっくり学びあいましたが、ひとつのテーマに「発達障がい」を設定し、約20名の保護者が参加し、それぞれの子どもの状況から学びあいました。

IV. 環境整備

今年度は学習の環境を意識した環境整備を中心に行いました。


パーテションで区切り小人数の講座、および個人学習に対応


視覚的な学習をしやすいために大型のテレビを導入。講座などで使用しています。

行事などを貼りだし、子どもたちが工夫してわかりやすいように知らせています。

初等部はその日の予定をホワイトボードに書き、目で見て分かるようにし、動きやすくする工夫をしています。

現在、取り組んでいるプログラムや活動が、残りどのくらいの時間で終了するか、また、次のプログラムが何分後に始まるかなどを設定して表示したり、残り時間が表示されるタイマー時計を活動空間ごとにおき、子どもたちが過ごしやすいように工夫しました。

V. 今後に向けて

1. フリースクール内での工夫・努力

 フリースクールにおける発達障がい等の子どもの割合は高まっており、より固有なニーズに応えていくことが必要となっています。

(1) 対応する人的体制の充実
フリースクールでは、特別な配慮の必要な子どもには個別の丁寧な対応を行いつつ、子ども・会員集団を分けることなく共に育ち合う学び・体験の環境と活動を行っていくこと、また、子どもの特徴を「発達障がい」として理解するよりも先に、個々の特性・個性として認識し合い尊重し合うなかで、どの子にも過ごしやすく学びやすい環境を子どもどうしでつくり上げていくが特徴です。そのためには、子どもどうしの関係調整や子どもの気持ちをじっくり聞き、じっくり時間を共有していく大人・スタッフの体制の充実がますます必要となっています。常勤スタッフはもちろんのこと、ボランティアや保護者の協力体制を充実させていくことも求められます。

(2) 保護者どうしの支え合い、理解のための学習の機会
 保護者の不登校への肯定的理解が子どもの成長・発達に大きく寄与していることと同じく、障がいに対してもしっかりとした理解が大事です。しかし、フリースクールに集う親たちは、それまでの子育てや学校経験のなかで、深く傷ついたり、不安になったり、孤立したりした経験を持っています。保護者がそれぞれの経験や悩みを共有し、学びあい、支えあう機会として、保護者会活動、障がいを考える会の活動を継続、拡充する必要があります。

(3) スタッフの学習の機会・研修
 スタッフは子ども・保護者から学びつつ、より広い視野と見地からフリースクールでの実践を推進していく能力を高めていく必要があります。他の活動団体、研究者等から学ぶ研修の機会は重要です。

(4) 環境整備
 表示や機器の導入という、ちょっとした工夫が子どもたちを居やすくします。一つ一つ、子どもの特徴や個性に応じた工夫をすることは、障がいの有無にかかわらず、どの子にとっても過ごしやすく学びやすいユニバーサルな環境づくりにつながります。
フリースクールの共につくる活動の中においても、安心でき、一人でもいられる空間が必要であり、そのような空間的環境整備が必要です。

2. フリースクール等への公的支援の模索

 2012年12月に文科省は、発達障がいの可能性がある小中学校の児童生徒は全体の6.5%という調査結果を出しました。また、フリースクールでは長年インクルーシブ教育を実践してきました。しかし、個別対応がとりわけ求められるため手不足は歪めません。人的環境のみでなく、物的環境においても、落ち着けるところ、個になりきれる場所が最も必要であり、視覚支援や教材・教具の工夫も課題です。
 文科省は2013年度概算要求で「インクルーシブ教育の構築」に約10億円の予算を計上しています。このような公的な支援をフリースクールにおいても行っていけるような制度を構築していくことも今後の取り組むべきことであると考えます。